形成外科は、体表面の異常や変形、欠損、外見的な不満に対し、様々な外科的手法を用いて、機能と形態の両方をより正常で美しい状態にし、生活の質を向上させる診療科です。
具体的には、皮膚・皮下腫瘍、顔のケガや骨折、やけどやキズアト、先天的な外表異常の治療や、欠損した組織の再建などを行います。
体表面を診療対象とするため、頭からつま先まで、全身のあらゆる部位の治療を行っています。それに従い、扱う手術法(術式)も無数と言えるほどに多彩です。
ケガ(傷)
けがに対応する診療科は、形成外科、整形外科、一般外科、皮膚科など多岐にわたりますが、皮膚表面の傷を見た目にも配慮しながら治療する専門科は形成外科です。多くの外傷が表面の損傷を同時に伴うため、迷った際はまず形成外科を受診してください。他科と連携して適切な治療を行います。
ヤケド
固体から液体、気体まで、高温の物体から皮膚がダメージを受けて損傷した状態です。化学物質や紫外線(日焼け)によっても生じます。また、即座に熱いと感じない程度の温度でも、長時間にわたって皮膚がさらされることでやけどを生じることがあります(低温熱傷)。
深さにより、Ⅰ度熱傷(表皮と呼ばれるごく浅い部位のみ)、浅達性Ⅱ度熱傷(表皮の下にある真皮の浅層まで)、深達性Ⅱ度熱傷(真皮深層まで)、Ⅲ度熱傷(皮下組織まで)に分けられます。
日焼けなど、赤くなるだけであればⅠ度熱傷、水ぶくれが出来たらⅡ度熱傷以上となります。一般的に浅達性Ⅱ度熱傷までであれば2週間以内に治癒してキズアトはほとんど残りません。深く、治癒までに時間がかかればかかるほど、キズアトはひどくなります。
深い広範囲のヤケドは手術(植皮術)が必要となりますが、それ以外では外用薬・創傷被覆材による保存的治療を行います。
迅速な初期対応と適切な外用薬・創傷被覆材の選択により、治療期間を少しでも短縮させることが出来れば、よりキズアトが残りにくくなります。
熱傷治療は形成外科が専門とする分野であり、受傷した際は出来るだけお早めにご相談ください。
キズアト~肥厚性瘢痕~
ケロイド
キズアトは、医学的に「瘢痕」と呼ばれます。ケガや手術で生じた組織の損傷部・欠損部(すきま)を埋め立てるために入ってくる瘢痕組織が、周囲の正常組織と比べて悪い目立ち方をしてしまうことが原因です。
キズアト(瘢痕)が硬く盛り上がった状態になったものを肥厚性瘢痕と呼び、かゆみや突っ張り感に悩まされることもあります。
さらに、元々のキズの範囲を超えて肥厚性瘢痕が拡大した状態をケロイドと呼びます。ケロイドは胸の中央、肩、背中、下腹部などの皮膚の緊張が強い部位に発生しやすい傾向があります。
目立たない、あるいは目立っても日常生活に支障がなく、患者様自身が気にならない傷跡は問題になりませんが、気になる、症状に悩まされている場合は形成外科的治療の対象となります。
治療について
外科的治療、薬物療法、圧迫療法などがあります。
瘢痕・肥厚性瘢痕に対する外科的治療では、目立つ部分を手術で切除し再度丁寧に縫合します。単純に縫い直すだけではなく、再発しにくいキズの方向や形状を綿密に計画する必要があり、専門性の高い手術になります。
ケロイドに対する手術治療は再発・拡大するリスクが高く、通常は推奨されません。どうしても実施する場合には術後の電子線照射を行った方が良いため、他施設との連携が必要となります。
薬物療法では、ステロイド含有テープの貼付や、ステロイド剤の局所注入が行われます。圧迫療法は、キズ痕用のテープやシリコンゲルを用いて術後の創部を常に圧迫することで再発防止を図ります。
キズアトを残さない縫合、治療について
形成外科はキズアトの治療に習熟していますが、そもそもキズアトを出来るだけ生じさせない予防的な治療が重要です。
キズアト(瘢痕)の正体は、損傷した皮膚に入り込む瘢痕組織です。これを出来るだけ生じさせないためには、組織の欠損部(すきま)を可能な限り作らないように、瘢痕組織が入り込む余地がないように、ピッタリと縫い合わせる必要があり、「真皮縫合」などの形成外科が得意とする技術が要求されます。
縫合を必要としないヤケド(熱傷)などの皮膚損傷も、治癒までに要する期間が2~3週間を越えると目立つキズアトになりやすいため、軟膏や創傷被覆材の使い方を細かく調整するなど、専門的な治療を行うことがその後の経過に大きく影響します。
ある程度の深さ(真皮深層以下)の損傷では、キズアトをゼロにすることは残念ながら難しくなります。しかし患者様自身が気にならない、メイクすれば隠せるといったレベルにまでなんとか改善させられるよう、当院では様々な治療計画を提案させて頂きます。
できもの
一般的に「膨らんでいるもの」あるいは「硬く触れるもの」で、皮膚・皮下腫瘍を指します。腫瘍とは、組織の一部が病的に増殖したもので、良性と悪性に分類されます。良性腫瘍は生命に影響を及ぼすことは少なく、悪性腫瘍(がん)は近くの組織に浸潤し、転移して生命を脅かします。皮膚がんは、早期に診断されることが重要です。
当院では、主に下記のような皮膚・皮下腫瘍の診療を行います。
皮膚悪性腫瘍は低悪性度でサイズが小さいものは当院で手術を検討しますが、高悪性度、サイズが大きいものは専門施設を紹介させて頂きます。
粉瘤 | 皮膚が毛穴の奥で袋を形成し、中に老廃物や皮脂が溜まった腫瘤です。袋自体を除去しなければ再発します。 |
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ほくろ | 皮膚の一部にメラノサイトという色素細胞が集まったものです。 |
石灰化 上皮腫 |
皮膚直下に石灰様の沈着物を生じて硬くなる良性腫瘍です。 |
脂肪腫 | 成熟脂肪組織で構成される比較的柔らかい皮下腫瘍です。身体の各部に発生します。 |
稗粒腫 (はいりゅうしゅ・ひりゅうしゅ) |
主に顔面のごく浅い表面にできる、直径1〜2mmの白く角質が詰まった袋です。 |
汗管腫 | 汗管が増殖してできたもので、眼の下に多発する小型で扁平に隆起した発疹 |
脂漏性 角化症 |
加齢(皮膚の老化)とともに増える、皮膚の良性腫瘍 |
日光角化症 | 日光を浴び続けたことによる皮膚疾患で、皮膚がんのごく早期の病変 |
ボーエン病 | 表皮内部に生じるがんの一種で、増殖が表皮内に留まっている状態 |
眼瞼下垂症
眼瞼下垂症は上まぶたが垂れ下がり、目が開けづらくなる状態です。先天的にまぶたを開く力が弱い場合は先天性眼瞼下垂と呼ばれ、加齢やその他の原因で発生するものは後天性眼瞼下垂と呼ばれます。視界が狭くなり、肩こりや頭痛が引き起こされることもあります。
手術により、たるんだ皮膚を切除したり、ゆるんだ眼瞼挙筋(瞼を上げる筋肉)をたくし上げるように縫合固定する術式で対応します。
眼瞼内反症・外反症
眼瞼内反症は「逆さまつ毛」に悩まれて受診される方に見られる状態です。上瞼、下瞼のいずれにも生じます。上瞼に生じる内反症は通常、眼瞼下垂の治療に準じます。
小児に生じる逆さまつ毛は「睫毛内反」に分類されます。
手術で治療しますが、小児の手術は局所麻酔では難しいため、専門施設へ紹介させて頂きます。
眼瞼外反症は主に下眼瞼に生じ、瞼が外側へめくれるように倒れて赤い結膜部が露出した状態です。
内反・外反症は加齢により瞼の構造がゆるみ、強度が弱くなったことによって生じるもので、手術による矯正が必要です。
巻き爪
「巻き爪」の訴えで受診される爪の状態には主に以下の2種類があります。
- 爪甲の側縁が皮膚に食い込んで痛みや感染などの皮膚障害を生じている「陥入爪」
- 爪甲が皮膚を巻き込むように丸く変形した「弯曲爪」
です。
弯曲爪の手術治療としては「爪床形成術」が実施可能ですが、爪甲の変形だけで症状がなければ通常は治療の必要はありません。
陥入爪はサイズの合わない靴や運動習慣、深爪などが原因で生じることが多いため、まずはこれらの改善を提案させて頂きます。
軽症であれば、自宅でのこまめな洗浄による清潔保持や外用薬の使用で改善が期待できます。
部分抜爪(楔状爪甲切除術)について
感染や長期経過による不良肉芽(ジュクジュク、ブヨブヨと肉が膨らんだ状態)が認められる場合には、局所麻酔下での部分抜爪(楔状爪甲切除)を提案致します。
食い込んでいる縁の爪甲のみを切除する方法で、物理的に原因を排除することによって、速やかな症状の改善が図れます。
この術式は指ブロック麻酔と抜爪手技への習熟が必要なため、施設によっては提案されないまま、外用薬や抗生剤の内服、液体窒素処置などが漫然と継続されて難治となっている症例が多く見受けられます。
爪母(毛根と同様、爪を生成する部分)は切除しないため、切除した爪はいずれまた元通りに生えてきます。爪甲が再生するまでの間に靴の調整や爪の切り方を変えるなどして原因を排除すれば再発が予防できます。
それでも再発してしまう場合には、爪母切除術という術式で爪甲の幅を永久的に細くする治療法を提案させて頂きます。
また、自由診療になりますが、ご希望に従ってワイヤーによる巻き爪矯正も実施可能です。
皮膚・軟部組織
感染症への対応
「キズが膿(う)んだ」という訴えで受診されることが多い状態です。
皮膚・軟部組織の感染症はその重症度により治療法が異なります。適切な治療が選択されない場合、進行して重症となる危険性があります。
感染は皮膚のごく浅い部分の炎症にとどまるものから、皮膚の深部から脂肪などの皮下組織まで炎症が及んでしまった「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」、処理しきれない炎症により皮膚の下に膿(うみ)が溜まってしまった「膿瘍(のうよう)」、血流が途絶えた組織の「壊死」、と進行に従ってステージが変わります。
感染症の治療としては抗生剤の投与が一般的ですが、その効能には限界があります。抗生剤は血流で病巣に運ばれるため、膿(うみ)が溜まってしまっている「膿瘍」や血流の途絶えた「壊死組織」には抗生剤が届きません。膿瘍に漫然と抗生剤を投与することは「臭う生ゴミに消臭剤をふりまく」ことと同様、根本的な解決にならずに事態を悪化させるばかりです。
生ゴミはまとめて収集所に出すしかないように、膿瘍や壊死組織は外科的に取り除くことでしか治療出来ません。
この「切開排膿術」や「デブリードマン(壊死組織切除)」と呼ばれる術式の適応を見極め、迅速に行なえる経験と技術が感染症治療には必須となります。
外科的治療について提案されないまま難治となっている場合には速やかにご相談ください。
劇症型溶血性レンサ球菌感染症
近年、「人食いバクテリア」という呼び方でその増加についてニュースで取り上げられることが多い疾患です。報道直後は不安になった患者様が多く受診される傾向にあります。
A群溶血性レンサ球菌による軟部組織の感染症ですが、極めて進行が早く、致死率も高いため、初期の見極めが重要となります。当院ではこれまでに複数の症例経験がある院長が診察を担当します。